①大きな熊が来る前に、おやすみ。
②クロコダイルの午睡
③猫と君のとなり
の三篇。
①大きな熊が来る前に、おやすみ。
保育士の珠実は徹平と同棲中。
ずっと一緒にいて、結婚もなんとなく見えているけれど、珠実の中では徹平と暮らすことは、決して心安らぐこととは限らない。
昔父親に受けた暴力とかが珠実の心の中に、癒されない傷として残っていて、その傷は、徹平による一度きりの暴力のせいでぷすぷすとくすぶっていて、不安がぬぐえないのだ。
それは徹平自身が家族の中であった出来事の中での傷が関係しているのだけど・・・。
珠実の妊娠がわかっても、ふたりで喜ぶという雰囲気にはならず、未来への希望が見えることもなく・・・。
「不安」が漂う物語が、島本理生の作品の特徴だと思う。
特に家族の中での体験などから生まれた成長の家庭の中での悶々とした不安感、変えようのない過去からの産物である哀しみが、主人公の性格に影を落としていることが多い。
悪く言えば、暗いんだけど、その暗さ自体はそんなに苦痛なのではなくて、味わうのにほどよい、知りたい、と思えるほどの暗さ、人間の小さな闇のようなものだと思う。
ふとした時に姿を現す、普段は見逃してしまいそうな影と共存しながら人は生きている。
その心の動きが読者の私を捉える。
珠実と徹平は、この先、子供をもうけても、なんだか幸せになれる、というような気がしないのだ。
それは珠実自身も切々と感じていること。
だけど、その未来からわざわざ逃れようとするだけの勇気も、そんな不幸を断ち切って大きな希望を見出すだけのパワーもないまま、ただずるずると、起きるであろう哀しい出来事を許容することでしか生きていくことができないのではないか、と思わせた。
哀しい物語、なのかも。
②クロコダイルの午睡
ただ普通の大学生の主人公の話かと思ってたら、違った。
悪気はないけれど、その恵まれた家庭環境と、鈍い性格で主人公を傷つける都築と、少しずつ関係が近くなっていく中、期待したり、心をかき乱される主人公。
自分の恵まれない生い立ちをコンプレックスとして気にして努力してなんとかしてきたのに、いとも簡単にそれを打ち砕いたり傷つけてしまう都築を、最後事故に見せかけて死なせてしまってもいいというところまでいってしまう行動に、驚いたり、共感したり。
それに対する淡々とした都築の言葉も印象的だった。
いつかそうなるかもしれないって自分でもわかっていて、それでも自分の育ちとか鈍さのせいとかわかってるって。
・・・言葉が出なかった。
③猫と君のとなり
また過去に傷を持った主人公(昔の恋人にストーキングされる)が新しい恋をつかむ話。
暗すぎもせず、淡々と、でも少しだけ優しい未来を感じさせるかわいい物語だった。
(それでも島本理生らしく、ちょっと暗い)
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